電子ジャーナル 技報R&Dレビュー

要旨集●Vol.36 No.3(2001年9月発行)
 特集:形態制御無機材料
 Review
P.1

鷹取一雅

 無機材料が関与するバルクおよび粉体の形態制御材料に関して,最近の合成技術動向を概観した。その中で,近年当所で開発された新技術の研究報告の特集3件,i) 配向制御圧電セラミックス,ii) ミクロ構造を制御した高機能メソポーラス材料,iii) 超臨界流体を溶媒にした形状転写材料の合成に関してその特長を紹介した。

 

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 Research Report
P.5

若山博昭

 臨界温度,臨界圧力を超えた状態の超臨界流体は,高拡散性・低粘性であり,温度・圧力の変化により溶解度を大きく変化させることができる。これらの特徴を利用することで原材料を溶解させ,鋳型の微細な細孔内にまで原材料を供給することができると考えられる。
 超臨界流体の反応溶媒としての利用は,従来の方法では実現困難な材料の合成・加工プロセスとしてだけでなく,環境への負荷を大幅に低減した新規プロセスとしても期待される。
 本稿では,当所で開発した超臨界流体を溶媒に利用した新規多孔体合成法 ( Nanoscale Casting; NC法 ) について報告する。超臨界流体に原料前駆体を溶解させ,鋳型となる活性炭に接触させた後に,焼成等により鋳型活性炭を除去することで,活性炭のnmオーダの微細な構造からcmオーダのマクロ形状までも転写した多孔体を合成することができた。本法は,シリカ等のセラミック多孔体のみならず,Pt等の金属多孔体の合成にも適応できる。超臨界流体は,nmオーダの微細な空間での反応溶媒として好適であることが確かめられた。

 

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P.11

稲垣伸二

 FSM-16を代表とするメソポーラス物質は,大きい比表面積,高い安定性,ナノサイズの均一細孔など,触媒や吸着材として使用する上で優れた基本物性を有する。しかし,FSM-16の細孔壁は一様なアモルファスシリカ (SiO2) でできていることから,表面の吸着性や触媒作用に乏しいため,その用途は限られていた。細孔表面に特異な吸着・触媒機能を付与できれば,メソポーラス物質の多様な用途展開が可能となると考える。ここでは,細孔壁の構造を制御した3種類の高機能メソポーラス物質の合成と機能について紹介する。細孔壁内に有機基を導入したメソポーラス物質は,有機化合物に対する高い分離特性を示した。さらに,官能基の導入により,酸触媒,プロトン伝導性,イオン交換特性の発現が期待される。TiXPO4の細孔壁組成を有するメソポーラス物質は,水を分解して水素を生成する光触媒作用を示した。シリカの細孔壁に分子サイズの微孔を形成したメソポーラス物質は,FSM-16やY型ゼオライトよりも優れたガスの分離特性を示した。

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P.19

谷俊彦

 新たに開発したRTGG (Reactive Templated Grain Growth) 法により,世界で初めて単純ペロブスカイト型化合物の配向セラミックス化に成功した。RTGG法は,異方形状単結晶粉末をテンプレートとして用い,これと反応してテンプレートと格子整合性のある目的物質を合成する補完原料と共に混合して配向成形し,熱処理により固相反応に続いて配向粒成長を生じさせる手法である。板状Bi4Ti3O12 (BiT) 粉末を反応性テンプレートとして用いて作製した圧電性配向Bi0.5(Na,K)0.5TiO3 (BNKT) セラミックスは,同じ組成の無配向焼結体よりも,30-40%高い電気機械結合係数 (Kp) ,50-60%高い圧電定数 (d31, g31) を示した。また,誘電損失は20-40%低減された。この手法は,Bi層状構造強誘電体の配向化や酸化物熱電材料の配向化にも適用が可能な組織制御技術であり,材料の高機能化への貢献が期待できる。

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