43巻3号 (2012.9)
特集
金属材料
Part Ⅰ.特集
特集概要
論 文
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2. High Strength Fe-Ni-Co-Ti Alloy
高強度Fe-Ni-Co-Ti合金(1,108kB)pages 1-10
倉本繁、古田忠彦、長廻尚之、堀田善治
最近著者らは、超高強度高延性Fe-Ni-Co-Ti系合金を見出し、この特性が一見背反する弾性軟化現象を利用することにより得られることを示した。本稿では、原子間結合力を制御するという合金設計指針に焦点を当てて、この高強度Fe-Ni-Co-Ti系合金に関する最近の研究結果をまとめた。
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pages 11-15
与語康宏、竹内裕久、田中浩司、岩田徳利、石川孝司
鉄鋼材料の高温加工中に生じる組織変化の観察に適したその場観察手法を開発した。高温粒成長、動的再結晶のその場観察の結果を観察事例として示す。
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pages 17-26
池畑秀哲、田中浩司、Carlos Capdevila
中炭素鍛造用鋼で連続する相変態の速度論モデルを開発し,実際のフェライト、パーライト、ベイナイトからなる混合組織と比較した。多元系熱力学と連携した核生成・成長モデルは、Mn濃度、母相粒径、冷却速度を変えた時の組織比率と良く一致した。本モデルにより、ベイナイト発生を避けるための実際的な鍛造条件を知ることができる。
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5. High Specific Strength Aluminum Alloys
高比強度アルミニウム合金の開発 (1,540kB)pages 27-32
松岡秀明、前嶋貴士
新規の高比強度アルミニウム合金"ULMat (Ultra Strong Material)"は、引張強度、疲労強度が高く、かつ723Kで加熱されても大きく強度低下しない高い熱的安定性を有する。これは、熱間押出加工中に動的析出した整合L12_Al3(Zr,Ti)相によって発現する優れた特性である。ULMatは、自動車の軽量化、高機能化に貢献する新しい材料として期待できる。
【日本語関連論文】
・松岡秀明, 前嶋貴士, "高比強度な非熱処理型粉末アルミニウム合金の開発", 軽金属, Vol.60, No.11 (2010), pp.585-589.
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pages 33-41
高田幸生、金子裕治、福本恵紀、宮本典孝、真鍋明、今田真、菅滋正
NdFeB磁石へのDy拡散処理が磁区構造に及ぼす影響を解析した。その結果、Dyの粒界への濃化により、Dyを添加した場合と同様に逆磁区の成長が抑制されることが判った。また、磁石の組織がDy拡散反応に及ぼす影響を検討し、不純物酸素とDyの反応を抑制することでDyの粒界拡散が促進されることが判った。
【日本語関連論文】
・高田幸生, 福本恵紀, 金子裕治, 真鍋明, 宮本典孝, 今田真, 菅滋正,"Nd-Fe-B焼結磁石の保磁力と磁区構造に及ぼすDy拡散処理の効果", 粉体および粉末冶金, Vol.57, No.12 (2010) pp.789-794.
・高田幸生, 金子裕治, "Dy拡散処理におけるNdFeB系焼結磁石の組織改善効果", 粉体および粉末冶金, Vol.59, No.3 (2012) pp.156-160.
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pages 43-50
佐藤岳、大砂哲、金子裕治、高橋有紀子、宝野和博、嶋敏之
NdFeB磁石の微細組織が保磁力に及ぼす影響を3元系Nd-Fe-B薄膜を用いて調査した結果、膜厚と共に単磁区から多磁区構造へと変化し、膜厚8 nmで19.5 kOeの保磁力を呈した。また、非磁性元素の粒界への拡散により、保磁力が26.1 kOeまで増加した。
Part II.ハイライト論文
レビュー
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8. Key Technologies for the Development of an Automotive MEMS Sensor
自動車用MEMSセンサ開発のためのキー技術(1,525kB)pages 51-60
明石照久、藤吉基弘、畑良幸、野々村裕、船橋博文、大村義輝
容量式MEMSセンサの開発向けに3種類の要素技術を開発した。それらの技術は、補償マスクパターンを用いた超深堀Siエッチング、ポリシリキノコ構造を用いたZ方向の固着防止、そして、高分解能のリークテストである。これらの要素技術は、自動車用MEMSセンサの開発に大きく貢献する。
論 文
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9. Realization of Fiber Lasing under Natural Sunlight Pumping
太陽光励起によるファイバレーザ発振(1,319kB)pages 61-68
水野真太郎、長谷川和男、伊藤博、鈴木健伸、大石泰丈
ダブルクラッド構造のNd添加フッ化物ガラス(ZBLANガラス)ファイバと、軸外し放物面鏡を用いて太陽光励起ファイバレーザーを実現した。ピーク波長1053.7nm、半値全幅0.013nmの明瞭なレーザー発振線を確認した。発振しきい値は49.1mW、スロープ効率は3.3%であった。
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10. Light Manipulation with Dielectric Gratings
誘電体グレーティングを用いた光制御(699kB)pages 69-75
飯塚英男、Nader Engheta、藤川久喜、佐藤和夫、竹田康彦
グレーティング(周期凹凸)で構成した光結合器と光スイッチを紹介している。光結合器は、垂直入射光を大きな角度50度に屈折可能である、一方、光スイッチは、上下に平行配置したグレーティングを水平方向にシフトさせることで広帯域なオン/オフ特性を示す。本論文では、動作メカニズムを中心に述べている。
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pages 77-94
竹田康彦、元廣友美
世の中で50%以上の高い変換効率が期待されている多重励起子生成太陽電池およびホットキャリア太陽電池の限界変換効率を計算する新しいモデルを構築した。現実的には除去できないエネルギー散逸過程の影響は深刻であり、これらの方式により、既存の太陽電池と競合することは極めて難しいと言わざるを得ない。