当社の稲葉正哲らが執筆した総説論文が、 International Journal of Hydrogen Energy に掲載されました。

 

2050年の温室効果ガス排出実質ゼロの実現に向けて、低炭素な水素製造技術の普及が求められています。プロトン交換膜(PEM)型水電解は、電気を使って水を水素と酸素に分解する技術で、特に再生可能エネルギー由来の電力を活用した「グリーン水素」の製造方法として期待されています。

 

PEM型水電解の大規模な普及に向けては、水素製造コストと、触媒として使用される希少金属イリジウム(Ir)の必要量を精度よく見積もることが重要です。これらを精度よく見積もるためには、水電解セルやその構成材料の性能だけでなく、長期間の使用に伴う劣化と性能低下を定量的に予測する必要があります。

 

PEM型燃料電池に用いられる白金(Pt)系触媒では、触媒の劣化メカニズムに関する研究や、それに基づいて性能低下を予測するモデルの開発が進められており、これまでの研究成果を体系的に整理した総説論文も報告されています。一方、PEM型水電解に用いられるイリジウム酸化物触媒についても劣化に関する研究は進展しているものの、劣化メカニズムに関する知見と、性能の経時変化を表すモデリングや寿命予測とを関連付けて包括的に整理した総説論文は、これまでありませんでした。

 

こうした背景を踏まえ、本総説では、イリジウム酸化物触媒の劣化に関する最新の知見を概観するとともに、劣化を予測するモデリングの近年の進展を整理し、今後取り組むべき課題と研究の方向性を示しました。

 

本総説は、イリジウム酸化物触媒の劣化メカニズムの理解と寿命予測技術の発展を促し、水素製造コストやイリジウム必要量のより正確な見積もりを支えるとともに、PEM型水電解の実用化・大規模普及に向けた触媒およびシステム設計の高度化への貢献が期待されます。
 

 

タイトル: Toward Modeling and Mechanistic Understanding of Iridium Oxide Catalyst Degradation in PEM Water Electrolysis

著者: Inaba, M., Watanabe, T., Kodama, K

掲載誌: International Journal of Hydrogen Energy

掲載日: 2026年5月15日

https://doi.org/10.1016/j.ijhydene.2026.155499