要旨集●Vol.36No.4(2001年12月発行)
特集:直噴ガソリンエンジンの燃焼とエミッション改善
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Review
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P.1
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筒内噴射成層燃焼エンジンはガソリンエンジンの燃費改善に大きな効果があるとされてきたが,実用化がなされていなかった。これに対して1996年にトヨタ自動車と三菱自動車はそれぞれ「D-4」,「GDI」と称する筒内噴射成層燃焼エンジンを開発し市販車に搭載した。当社でもトヨタ自動車でのエンジン開発に対応して,燃料噴射系の開発や燃焼解析の面から支援を行った。一方で一層の性能改善を目指した新たな燃焼系を探索していた。この新たな燃焼系コンセプトは1998年に第二世代のD-4燃焼系として採用された。本特集はこの第二世代のD-4燃焼系に関する技術内容をまとめたものである。
本概況では個々の技術内容に先立ち,筒内噴射成層燃焼エンジンの特徴と過去の開発経過について述べる。
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Research
Report
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P.6
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直噴ガソリンエンジンにおける成層混合気形成を混合速さの観点から考察し,空気を巻込み易くして過濃混合気を減らすことが性能改善に有効であることを示した。そして,これをもとに新しい成層混合気形成法を開発した。本混合気形成法は偏平扇形の噴霧をピストン頂面に向けて噴射し,ピストンに設けたキャビティを利用して点火栓周りに燃料を成層化する方法で,噴霧が作り出す流れとキャビティ形状により,最初は偏平扇形の噴霧が点火時にはほぼ回転楕円形状の混合気になる。本手法は従来の成層混合気形成法とは噴霧形状が異なるだけでなく,スワール,タンブル等の大きな筒内ガス流動を必要としない特徴がある。
偏平扇形の噴霧はノズルにスリット噴孔を開けて形成した。このようにして形成した噴霧はスワールノズルで形成した円錐噴霧と異なり,空気密度の高い圧縮行程噴射でも噴霧が縮みにくく,貫徹力が大きい特徴を持つ。
本燃焼系の性能は単筒エンジンを用いて調べた。噴射方向をシリンダ下方に選び,シェル ( 貝 ) 型キャビティを用いると低燃費が得られることを見出した。そして,エミッションと燃費が改善できることを明らかにした。
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P.13
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火花点火エンジンのさらなる燃費向上,排気浄化を目指して直噴ガソリンエンジンの開発が各社で進められている。これまでに開発された主なエンジンの混合気形成法は,スワールやタンブル等の空気流動を積極的に利用して点火栓近傍に混合気を導く方法であった。このような空気流動を発生させると体積効率の低下を招く。これに対して特別な空気流動発生機構を用いず,噴霧自身がもつ分散性や貫徹力,およびピストン形状の最適化で混合気形成を図り,広範囲の運転条件で成層運転を可能にする新コンセプトが提案され,実用化された。このコンセプトを成立させるために開発したスリットノズルは,矩形の噴口形状をもち,偏平な扇状の噴霧(ファンスプレー)を形成させるものである。スリットノズルの噴霧特性を評価した結果,(1)
噴霧到達距離はスリット厚さの増加に伴って増加する,(2) 直噴ガソリンエンジンで使用される高噴射圧領域における噴霧粒径に対してスリット厚さの影響が小さい,(3)
スワールノズルと比較して高微粒化,高分散,高貫徹力噴霧を形成できることが分かった。さらに,これらの実験結果を基にして噴霧到達距離と平均粒径に対する実験式を導いた。
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P.19
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新しい直噴ガソリンエンジンの燃焼系開発を支援するため,標記解析手法を構築した。開発した手法は,噴霧の壁衝突などの挙動を模擬する噴霧モデル,および未燃ガス温度と断熱火炎温度に着目した適用範囲の広い燃焼モデル,さらに計算結果に応じて格子を効率良く細かく分割する解適応格子法より成る。この手法を用いてスリットノズルによるファンスプレー燃焼系の成層燃焼過程を解析した結果,以下のことが得られた。1)
従来手法と比較して約1/3の計算時間で同等の計算精度が得られた。2) 噴霧単体挙動,筒内の混合気および燃焼過程は実験と良く一致する。3)
ファンスプレーはその噴霧形態から生じる縦渦により,高分散でありながら燃料の過度の拡散を防ぐという成層燃焼に適した特徴を持つ。また,これらの結果より本手法がエンジン開発ツールとして十分実用的であることが確認できた。現在エンジン開発に広く利用されている。
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P.27
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直噴ガソリンエンジンのEGR時,燃焼変動を解析するため,LIF法によるサイクルごとの混合気濃度計測を行った。混合気濃度はサイクルごとに変動しており,噴射の進角および遅角側では,点火時に特にリーン
( 進角側 ) あるいはリッチ ( 遅角側 ) な混合気が存在したサイクルで,初期燃焼期間が長くなりIMEP
( 図示平均有効圧力 ) が低下し燃焼変動が大きくなる。すなわちこの条件での燃焼変動の主要因は,点火時の点火栓部混合気濃度と言える。一方,噴射の中央値付近である適正噴射時期においては,点火栓部濃度は変動するものの,その値と初期燃焼期間,およびIMEPとの間には明確な相関は見られない。この条件でIMEPと強い相関があるのは主燃焼期間であり,燃焼変動のメカニズムは噴射時期によって異なっている。解析の結果,適正噴射時期における燃焼変動は,燃焼後半にキャビティ周辺に存在する未燃混合気量と強い相関があることが分かった。これより,この希薄混合気量を低減することが,燃焼変動改善に有効であることを明らかにした。
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P.35
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直噴ガソリンエンジンを用いたNOx吸蔵還元型触媒の性能 ( NOx還元効率および硫黄被毒再生能力
) 向上に関する検討を実施した。
排気システム配置とNOx浄化との関係解析より,NOx還元効率の向上に対して,H2はCOよりも高い還元剤としての能力を示した。この結果を基にして,水素をNOx吸蔵還元型触媒上で作り出すために,セリアを利用した水性ガス反応
( CO+H2O→CO2+H2 )
の促進を試みた。
セリアにより酸素吸蔵能を強化したNOx吸蔵還元型触媒は,Rich Spike期間中において貴金属の活性化に寄与する発熱とNOxの還元効率を向上させるH2の生成を示した。
このNOx吸蔵還元型触媒は,Rich Spike燃焼の最適化により,基準触媒に比べ最大で30%のNOx浄化率の向上を示した。硫黄被毒再生に対してもRS燃焼と組み合わせることにより,セリアの酸素吸放出特性を利用した触媒の急速昇温が可能となり,従来制御法に比べ大幅な硫黄脱離促進を実現した。
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