豊田中央研究所 森川特別研究室

研究テーマ

二酸化炭素 (CO2) 分子に常温常圧付近で光エネルギーを貯める人工光合成は、究極の高密度エネルギー貯蔵技術です。この反応には、植物と同じように水 (H2O) を光のエネルギーで酸化分解して酸素を作り、水分子から取り出した電子とプロトン (H+) をCO2分子と化学反応させる必要があります。私たちは、水中でも可視光エネルギーでCO2を有機物に変換可能な、半導体と金属錯体触媒を複合化した新しい概念の光触媒原理を実証しました。これを進化させることで、一室反応槽中の水溶液に一枚の板状の「人工の葉」素子を浸漬し、CO2ガスと太陽光を投入するだけで有機物であるギ酸 (HCOOH) が合成できる人工光合成システムを実現しました。
現在では、植物の光合成反応に匹敵する太陽光変換効率4.6%で、水とCO2を原料として光エネルギーをギ酸分子として貯蔵することが可能です。私たちは、太陽光変換効率を高めるとともに、より付加価値の高い有機物の合成技術の確立を目指しています。

図1.一枚の板状人工光合成デバイス「人工の葉」

図1.一枚の板状人工光合成デバイス「人工の葉」

     
  1. Sato, S., Arai, T., Morikawa, T., Uemura, K., Suzuki, T.M., Tanaka, H. and Kajino, T., Journal of the American Chemical Society, Vol. 133, No. 39 (2011), pp. 15240-15243. http://dx.doi.org/10.1021/ja204881d
  2. Arai, T., Sato, S., Kajino, T. and Morikawa, T., Energy & Environmental Science, Vol. 6, No. 4 (2013), pp. 1274-1282. http://dx.doi.org/10.1039/c3ee24317f
  3. Arai, T., Sato, S. and Morikawa, T., Energy & Environmental Science, Vol. 8, No. 7 (2015), pp. 1998-2002. http://dx.doi.org/10.1039/c5ee01314c
1.半導体と金属錯体触媒の機能を複合化した光触媒

常温常圧付近において可視光でCO2を還元反応する「人工光合成」触媒として、代表的なものは半導体と金属錯体です。しかし各々、CO2反応選択性が低い、可視光エネルギーが利用できない、等々の課題がありました。そこで、私たちは、半導体触媒と錯体触媒の利点を融合した半導体-錯体ハイブリッド触媒の原理を実証しました(図2)。これにより、半導体が可視光を吸収して生じた励起電子を錯体触媒に高速移動させることで、溶液中に溶存するCO2を可視光エネルギーでも高効率に還元反応させることが可能となりました。この原理は、両材料の物性値のマッチングが取れれば、多くの材料に適用可能なことが明らかにされつつあります。

図2.半導体と金属錯体触媒を複合化した光触媒の反応機構

図2.半導体と金属錯体触媒を複合化した光触媒の反応機構

  1. Sato, S., Morikawa, T., Saeki, S., Kajino, T. and Motohiro, T., Angewandte Chemie-International Edition, Vol. 49, No. 30 (2010), pp. 5101-5105. http://dx.doi.org/10.1002/anie.201000613
  2. Arai, T., Sato, S., Uemura, K., Morikawa, T., Kajino, T. and Motohiro, T., Chemical Communications, Vol. 46, No. 37 (2010), pp. 6944-6946. http://dx.doi.org/10.1039/c0cc02061c
  3. Suzuki, T. M., Tanaka, H., Morikawa, T., Iwaki, M., Sato, S., Saeki, S., Inoue, M., Kajino, T. and Motohiro, T., Chemical Communications, Vol. 47, No. 30 (2011), pp. 8673-8675. http://dx.doi.org/10.1039/c1cc12491a
  4. Sato, S., Morikawa, T., Kajino, T. and Ishitani, O., Angewandte Chemie-International Edition, Vol. 52, No. 3 (2013), pp. 988-992. http://dx.doi.org/10.1002/anie.201206137
2.ナノ構造光電極

人工光合成システムの効率を向上させるためには、光電極のナノ構造化は重要な要素の一つです。私たちは酸化物への異元素ドーピングにより、高表面積かつバンド制御された可視光応答型のナノチューブアレイの作製に成功しました。中でも窒素と鉄を共ドープした酸化チタン電極は特に優れた可視光応答性を示し、Co助触媒の表面担持によって酸化チタン系でも可視光エネルギーで水中において光電気化学的に水を分解し酸素を発生できることを明らかにしました。

図3.可視光で水の酸化反応を実現するN,Fe共ドープTiO2ナノチューブアレイ電極

図3.可視光で水の酸化反応を実現するN,Fe共ドープTiO2ナノチューブアレイ電極

  1. Suzuki, T. M., Kitahara, G., Arai, T., Matsuoka, Y. and Morikawa, T., Chemical Communications, Vol. 50, No. 57 (2014), pp. 7614-7616. http://dx.doi.org/10.1039/c4cc02571g
3.粉末懸濁型Zスキーム光触媒の実現

人工光合成の究極系である、水溶液中への粉末触媒懸濁によるCO2還元反応の実証を目指しています。半導体/金属錯体光触媒を、可視光応答性をもつ2種の半導体粒子、金属錯体触媒、そして薄片状の還元型酸化グラフェン (RGO) (半導体粒子間の固体電子メディエータ)を組み合わせた光触媒として構成しました。まだ水中でのCO2還元反応までには至りませんが、錯体触媒を水素生成反応場として利用した粉末懸濁型の可視光水分解反応を、太陽光照射下でのZスキーム機構によって初めて実現しました。(東京理科大 工藤研究室との共同研究)

図4.半導体/固体電子メディエータ/錯体触媒を複合化した人工光合成系

図4.半導体/固体電子メディエータ/錯体触媒を複合化した人工光合成系

  1. Suzuki, T. M., Iwase, A., Tanaka, H., Sato, S., Kudo, A. and Morikawa, T., Journal of Materials Chemistry A, Vol. 3, No. 25 (2015), pp. 13283-13290. http://dx.doi.org/10.1039/c5ta02045j
4.p型Fe系酸化物半導体の人工光合成への応用

人工光合成を広く普及させるためには、安価かつ資源量豊富な光エネルギー変換材料の開発が必要です。へマタイト(α-Fe2O3) やCaFe2O4などの鉄系半導体は、太陽光の主要な成分である可視光を有効に利用でき、資源量も非常に豊富であることから有望な候補の一つです。しかしこれら鉄系半導体は、光電変換効率が著しく低く、光エネルギー変換素子としての応用はほとんど進んでいませんでした。私たちは、これら鉄系半導体材料の人工光合成への応用を目指し、異種元素のドーピングや異種半導体材料の接合といった手法を駆使して、高効率化に向けた研究を行っています。

図5.異種元素をドープしたFe系化合物半導体電極

図5.異種元素をドープしたFe系化合物半導体電極

  1. Morikawa, T., Kitazumi, K., Takahashi, N., Arai, T. and Kajino, T., Applied Physics Letters, Vol. 98, No. 24 (2011), 242108. http://dx.doi.org/10.1063/1.3599852
  2. Morikawa, T., Arai, T. and Motohiro, T., Applied Physics Express, Vol. 6, No. 4 (2013). http://dx.doi.org/10.7567/APEX.6.041201
  3. Sekizawa, K., Nonaka, T., Arai, T. and Morikawa, T., ACS Applied Materials & Interfaces, Vol. 6, No. 14 (2014), pp. 10969-10973. http://dx.doi.org/10.1021/am502500y
5.半導体/金属錯体複合系の電子状態・電子移動機構の解析

半導体/金属錯体複合型の光触媒の研究の歴史は浅く、その動作機構に関する研究例はほとんどありません。研究所内外の専門家と連携し、高速過渡分光、量子化学計算、放射光施設による電子状態計測などを駆使して、複合体の電子状態や電子移動を支配する要因の解析を進めています。

図6.半導体/金属錯体複合系の電子状態解析

図6.半導体/金属錯体複合系の電子状態解析

  1. Yamanaka, K., Sato, S., Iwaki, M., Kajino, T. and Morikawa, T., Journal of Physical Chemistry C, Vol. 115, No. 37 (2011), pp. 18348-18353. http://dx.doi.org/10.1021/jp205223k
  2. Akimov, A. V., Jinnouchi, R., Shirai, S., Asahi, R. and Prezhdo O. V., Journal of Physical Chemistry B, Vol. 119, No. 24(2014), pp.7186-7197. http://dx.doi.org/10.1021/jp5080658
  3. Akimov, A. V., Asahi, R., Jinnouchi, R. and Prezhdo, O. V., Journal of the American Chemical Society, Vol. 137, No. 35(2015), pp. 11517-11525. http://dx.doi.org/10.1021/jacs.5b07454