太陽光エネルギーを使ってCO2を資源に変える人工光合成。
工場のCO2削減をはじめとする幅広い分野での実装を目指して、
実用サイズでの太陽光変換効率の向上に取り組んでいます。
当所では、地球環境問題の解決に向けて、工場などから排出されるCO2を回収し再資源化するシステムの実現を目指しています。特に、太陽光エネルギーを用いて水とCO2で有用な物質を生成する「人工光合成」に2000年代から取り組んでおり、今、実社会への適用に向けたさらなる一歩を踏み出そうとしています。今回、これまでよりも大きい36センチ角の人工光合成セルで、太陽光変換効率7.2%を達成しました。2030年ごろの実用化を目標に、基盤技術の確立に向け研究に取り組んでいます。
人工光合成とは、太陽光エネルギーを利用して、水とCO2から有機物を生成する技術です。当所は、2011年に世界で初めて、この3要素のみで駆動する人工光合成反応の原理実証に成功しました。この技術の特徴は、半導体と分子触媒を用いた方式を採用していることで、環境負荷の少ない常温常圧での動作が可能です。太陽光変換効率※は2011年の原理実証時に0.04%でした。研究開発を続けることで、2015年には植物を超える4.6%を達成しました。
※照射される太陽光エネルギーのうち、有機物に蓄えられるエネルギーの割合
森川シニアフェロー https://www.tytlabs.co.jp/sflabmorikawa/
1センチ角のセルで原理実証に成功したものの、社会実装するためには、実用的なサイズで高い太陽光変換効率を実現させる必要があります。一方で、単純にセルのサイズを大きくするだけでは太陽光変換効率が低下します。そこで、電子や水素イオンの動き、反応速度などに着目し、反応効率の高いセル構造の検討を進めました。その結果、2020年に36センチ角セルでの太陽光変換効率7.2%を達成しました。これは、同じ面積のスギ林と比較し、約100倍のCO2吸収を可能にする値です。
引用元:千葉県ホームページ https://www.pref.chiba.lg.jp/shinrin/shinrinkyuushuu.html
人工光合成の実用サイズ化にあたり、大きく3つの技術的課題を見出し、反応効率の高い構造を設計しました。
→ギ酸の生成量を増やすために還元電極の面積を広げる
→還元電極の素材をより電子が通りやすいチタン基板に変える
→水素イオンの移動距離を縮めるため、電極を向かい合わせに配置する
『上に挙げた以外にもたくさんの改善や創意工夫をすることで、今回の実用サイズの人工光合成セルでの高効率化を実現しました。この研究には私だけでなくさまざまな分野の研究者が関わっています。それぞれの知識や経験、アイデアを集結させることで人工光合成の実用化への一歩を進められたと思います。また、当所がこれまで培ってきた触媒研究の知見が礎になっていることは間違いありません。これからもさまざまな研究者と協力して、地球環境問題の解決に貢献できる人工光合成の実用化に取り組んでいきたいと思います。』(加藤)