メッセージ

社会協創の場と創造力の解放

日本の自動車産業の礎を築くことに貢献した豊田喜一郎は、実際技術と学術的研究が表裏一体であることをつねに意識していました。創業当時、産業で国に報いる、 産業報国を謳うトヨタにとって、裏打ちとなる学術的研究が非常に重要であり、いかなる事業環境においてもつねに事業の傍らに置き、経営者でありながら、生涯、研究に情熱を注ぎました。
1960年にトヨタグループの共同出資により設立された豊田中央研究所は、 産業をつくるという志を同じくした、トヨタグループという多様な企業群の中に存在しており、それはこれからも変わらない位置づけです。

トヨタグループがモビリティの価値に革新を興し続けるために、私たち豊田中央研究所が目指すべきことが「人・環境共生モビリティ社会」の実現だと考えています。製造業としての自動車産業は鉄鉱石を鋼板へ、そして自動車のボデーへと加工し、さらには駆動部品、電子部品など3万点もの部品を組み付けていくプロセスを通して金属資源に付加価値をつけていく産業です。しかし自動車によって形を変えた資源を有効に再利用するプロセスにおいては、環境への負荷や、多くのエネルギーが必要とされます。これを研究の力によって可逆的なプロセスへと変革することができれば、モビリティの価値を持続的に社会に循環させるための一つの道筋を示すことができるのではないかと考えています。

こうした研究を具現化するにあたり、私が大切にしているのが実際技術と学術研究の協創の場と、研究者が内に秘めた創造力の解放です。
科学技術が社会に広く実装されるためには、よりよいモノやサービスを安価に、そしてジャストインタイムに生み出すことが重要な要素の一つとなります。しかしそれを革新性や再現性をもって実現するには、学際的な学術知による裏打ちが不可欠であると思います。一方、どれだけ素晴らしい学術知であったとしても、それを現実的な製品へと結びつけるには、市場や社会を見通す感覚と実際的な技術が必要になります。豊田中央研究所はその成り立ちから、いずれも世界的な企業である、株主9社と技術協力契約会社約40社の技術者と研究者が闊達に協創できる稀有なプラットフォームとして存在しています。私はそれをさながら農業生産者と料理人との協創により実現した、極上の料理を下支えする道の駅―――多くの人々が行き交う道沿いの、活気あふれる市場のようなものとしてイメージしています。
またいつの時代も社会を大きく変革する技術の裏には、それを生み出す原動力となった研究者の存在がありました。私は当社の研究者が秘めている爆発的な創造力をアンロックすることで、私たちの研究が駆動する技術の進展を通じて社会が進化していく道筋を共に切り拓くことに邁進すると共に、冒頭に述べた喜一郎の考えを具現化していきます。

代表取締役 CEO
古賀伸彦

代表取締役 CEO 古賀伸彦-写真

人・環境共生モビリティ社会の実現に向けて

豊田中央研究所は、トヨタグループの技術開発と科学研究の推進を通じた学術の進歩と産業の発展を目指すために1960年に設立されました。
近年、エネルギー問題や気候変動対策に加え、世界の対立と分断が社会に影を落としています。こうした社会や経済の変化に適応すると同時に変化の流れを創り出すため、将来を予測し何をすべきかを具現化していく、それこそが今の時代に求められる研究所としての生命線であると考えています。
現在、私たちは2030年に向け「人・環境共生モビリティ社会の実現」というスローガンを掲げ、研究開発力のさらなる革新に乗り出しています。そして将来に向けた地力を強化する上で中核となる「社会シナリオ分析」「持続可能なモノづくりの革新」「知能資源の創出と最適化」に関する取り組みに力を入れています。

社会シナリオ分析のねらいは、地球環境や生物多様性の変化はもちろん社会制度やルールも含めた将来の社会像を描き出すことで、これからの産業や研究開発にいつ何が求められるかを明らかにし、将来シナリオとして手の内化していくことにあります。そしてその理解を踏まえ、モノづくり産業がこれからも持続的であるために求められる、エネルギーや資源循環、労働力の確保と生産性の更なる向上といった社会課題の解決に貢献する研究は、トヨタグループの研究所として特にこだわって取り組んでいくべきテーマと考えています。またAIに代表される社会の知能化においては、情報が産業を発展させるための起点となります。情報を創る、運ぶ、使う、管理するための量子技術を活用したセンシングや通信、コンピューティングといった今後のモビリティやエネルギーの価値を高めるために必要な研究もこれまで以上に強化を目指します。

所長に就任する前の一年間はCCO*として、世界の様々な研究機関や大学、企業の方々とこれからの研究開発のあり方について議論を重ねてきました。そして資源やエネルギーに乏しく、食糧自給率も低下しているわが国の現状において、これまで培ってきた優位性を保ちながら発展していくためには、知恵こそがカギになるとの想いを多くの方々と共有してきました。先行きが不透明な時代だからこそ、学術領域や産業の垣根を超えた競争力のあるクロスファンクショナルな研究プロジェクトに期待が集まっています。産業のリアルな現場から得られる課題やデータを見極め、サイエンスとエンジニアリングをつなげる実践的な研究を通じて、世の中の役に立つ形へと変えていくことのできる多くの研究人材を有しているのが当社の強みの一つです。私たちは「人・環境共生モビリティ社会」に向けた様々な研究開発分野においてその一翼を担い、社会に貢献できるよう挑戦し続けていきます。

代表取締役 所長兼CRO
志満津孝


*Chief Collaboration Officer
代表取締役 所長兼CRO 志満津孝-写真
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