令和3年度 文部科学大臣表彰 科学技術賞
このたび、当社は「高性能エンジンの鍵となるレーザクラッドバルブシートの開発」において、令和3年度 文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門)をトヨタ自動車と共同で受賞しました。
この賞は、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者について、その功績を讃えることにより、科学技術に携わる者の意欲の向上を図り、もって⽇本の科学技術⽔準の向上に寄与することを⽬的とし、⽂部科学省が表彰しています。
1. 受賞技術概要 「高性能エンジンの鍵となるレーザクラッドバルブシートの開発」
バルブシートは、鉄系合金粉末を焼結したリング状の部品をアルミ合金製鋳造シリンダヘッドに圧入する「圧入式焼結バルブシート」が一般的です。しかし、この方式では「圧入代」が必要なため、ポート周辺の設計に制約が生じ、湾曲した吸気ポート形状とならざるを得ません。そのため、強いタンブル流を形成できず、エンジンの熱効率を向上させる高速燃焼を実現できませんでした(図1左)。さらに、北米、南米を中心に拡大しているバイオエタノール燃料に対応する必要があり、バルブシート材料には耐腐食摩耗性の向上が求められました。
開発品では、熱力学ベースの合金状態図計算を駆使して設計した銅合金粉末を直接アルミ合金製シリンダヘッドへ供給し、レーザ金属積層造形方式を用いた斜方向クラッド技術によりバルブシートを形成しました。これにより「圧入代」による設計制約をなくし、高速燃焼に必要なストレートポートとタンブル流の形成を実現しました(図1右)。また、鉄系合金より耐食性に優れた銅合金を用いることで、バイオエタノール燃料に対する耐腐食摩耗性を確保しました。
開発品は、国内およびグローバル生産拠点で製造されるトヨタ自動車の新高性能エンジンA25Aに採用。ガソリン燃料エンジン車だけでなく、世界初の「フレックス燃料ハイブリッド車(HV)」にも搭載されました。世界トップレベルの熱効率(HVで41%)と高出力(convで60kW/ℓ)の達成に貢献しました(図2)。
また、燃費向上によるCO2削減、さらにバイオエタノール燃料適用によるCO2削減だけでなく、原料となる銅合金粉末の合金元素として必須であった環境規制物質であるコバルトのフリー化による環境性能の向上など、本開発は環境性能へも寄与しています。
2. 受賞者
当社受賞者:大島 正、加藤 元
共同受賞者所属:トヨタ自動車株式会社
当所では1980年代半ばから一貫してレーザクラッドバルブシート技術の開発に取り組んできました。世界に先駆け1990年代に一度実用化に至りましたが、製造管理の難しさから海外生産には至りませんでした。今回、TNGAエンジンとして再採用されるまで、幾度となく開発中断の危機がありましたが、他社が真似できない技術の構築を目指し、粛々と開発を進めた結果、本受賞に至ることができました。
令和3年度科学技術分野の文部科学大臣表彰受賞者等の決定について
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/mext_00547.html