小型リチウムイオン電池向けの新構造を開発
~同心円状の電極構造を持つ「ファイバー電池」でエネルギー密度と急速充放電を両立~
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株式会社 豊田中央研究所は、リチウムイオン二次電池の電極構造を刷新した「ファイバー電池」を開発しました。繊維状のユニットを束ねることで、エネルギー密度と急速充放電性能を両立するだけでなく、サイズや形状を柔軟に変えることもできます。この研究成果は、英国王立化学会の論文誌「Energy & Environmental Science」に2024年3月25日付でオンライン掲載されました。
【研究のポイント】
◆リチウムイオン二次電池で一般的な電極シート積層型の構造を刷新し、同心円状電極を持つファイバー電池を開発(図1)
◆従来のリチウムイオン二次電池が抱えていたエネルギー密度と急速充放電性能のトレードオフを解消
◆繊維状ユニットの束ね方によって様々な形状を作ることができ、ドローンなどのデバイスの骨格をファイバー電池で構成することも可能に
図1. 本研究の全体像
(a)ファイバー電池ユニットの構造、(b)ユニットを束ねた状態、
(c)束ねたユニットをラミネートした試験電池、(d)ドローンに搭載した様子
<背景>
繰り返し充放電できるリチウムイオン二次電池は、現在私たちの身の回りで広く使われています。リチウムイオン二次電池に求められる性能は、エネルギー密度、急速充放電、サイクル寿命、安全性など多岐にわたります。特にドローンやスマートデバイスに用いる小型電池では、それらの諸性能に加えて小型かつ軽量であることも求められます。
こうした複数の性能間にはトレードオフの関係があります。例えば、従来のリチウムイオン二次電池はシート状の2枚の電極(正極と負極)で電解質を挟んだ積層型の構造をしており、電極を厚くすることでエネルギー密度を高くできます。一方で、厚い電極内ではリチウムイオンが移動しにくくなるため、急速充放電が妨げられます。高性能なリチウムイオン二次電池を開発するには、こうした性能間のトレードオフを制御することが必須であり、世界中で盛んに研究が行われています。
当社の研究チームは従来のリチウムイオン二次電池が抱えている課題の解決を目指し、様々なアプローチで研究を進めてまいりました。このたび、従来のシート積層型の電極構造そのものを刷新したファイバー電池の開発に成功しました。
<研究内容と成果>
ファイバー電池は、負極である炭素繊維を中心に配置し、その周囲をセパレーターと正極で覆った同心円状の繊維構造を基本ユニットとしています。同心円状の電極構造は、従来のシート積層型に比べて、電極の対向面積を大きくすることができ、また電極内のイオン伝導経路を短くできます。こうした特徴により、従来のシート積層型電極では難しかった高エネルギー密度化と急速充放電性能の両立が可能になりました(図2)。
図2. 従来の積層型電極(a)と本研究で開発した同心円型電極(b)の比較
ファイバー電池は必要な容量に応じてユニットを束ねて並列につなぎ、パッケージングして使います。1本あたりの直径はおよそ300 μmで、288本束ねると鉛筆1本と同等のサイズになります。束ねる本数や形状は自在に変更できるため、用途に応じた様々な使い方が可能になります。例えばデバイスの骨格をファイバー電池で構成すれば電源スペースが不要になり、軽量化や省スペース化につながります。
本研究では実際にドローンの骨格にファイバー電池を応用する実験を行いました。288本のユニットを束ねてアルミニウムのラミネートフィルムで封止することで、225 mA hの容量を持つ試験電池を作製しました(図1c)。試験電池4つをドローンに搭載し(図1d)、1~1.5 mの高さで安定して飛行させることに成功しました。
<本研究の意義、今後への期待>
本研究では、リチウムイオン二次電池の電極を同心円状の構造にすることで、高エネルギー密度化と急速充放電性能の両立を実現する可能性を示しました。ユニットの束ね方でサイズや形状を自由に変えられるという特徴も併せ持つファイバー電池は、様々なデバイスに応用される可能性があります。
【論文情報】
タイトル: Three-dimensional Electrode Characteristics and Size/Shape Flexibility of Coaxial-fibers Bundled Batteries
著者: 牧村嘉也*1 、奥田匠昭*1 、棟方稔久*1 、月ヶ瀬あずさ*1 、岡秀亮*1 、佐伯徹*1 、森本凌平*1 、佐々木慈*1 、中野広幸*1 、伊藤勇一*1 、水谷守*1 、佐々木厳*1
*1: 豊田中央研究所
掲載誌: Energy & Environmental Science (IF = 32.4*2)
DOI: https://doi.org/10.1039/D4EE00283K
*2 https://pubs.rsc.org/en/journals/journalissues/ee#!recentarticles&adv (accessed September 19, 2024)