グリースのようにふるまう潤滑油被膜 ~添加剤OLAPの低摩擦メカニズムを放射光で解明
当社の高橋直子らが名古屋工業大学、トヨタ自動車と共同で行った研究が Friction に掲載されました。
自動車のパワートレーンや工作機械などの高効率化には、潤滑による機械損失の低減が欠かせません。一般に潤滑油には添加剤が含まれ、摩擦の低減、摩耗や焼付きの防止などに寄与します。中でも、酸性リン酸エステル(OLAP)は、極低面圧下における低速域で摩擦が極めて低くなる特殊な摩擦特性を有しているために広く用いられているものの、このしくみは十分に解明されていませんでした。
本研究では、放射光を用いた吸収端近傍X線吸収微細構造(NEXAFS)で、OLAP 添加油から形成された摩擦面の被膜を摺動時に近い環境で分析しました。またその結果について、第一原理計算によって化学状態を明らかにしました。これにより、リン酸エステルの鉄塩や配位構造体が基材との摩擦界面に凝集すると推察されました。さらに、摩擦界面に形成される被膜が単純な液体では説明できないような粘性挙動を示したことから、せん断速度によって粘度が変化する非ニュートン流体の特性を考慮した独自のモデルによる検証を行い、被膜はグリース様であることを理論的に説明しました。
本成果は、高性能潤滑油の分子設計に新たな知見を提供し、摺動部品の長寿命化と信頼性向上に寄与することが期待されます。
タイトル: Friction and wear characteristics of acidic phosphate ester boundary layers analyzed by near-edge X-ray absorption fine structure
著者: Takechi-Takahashi, N., Matsushima, K., Isomura, N., Kosaka, S., Ohmori, T., Sano, T., Maegawa, S., Ioigawa F.
掲載誌: Friction
掲載日: 2025年4月24日
https://doi.org/10.26599/FRICT.2025.9441040