周波数で波の行き先を自在に操るトポロジカル結合器を提案
当社の舟山啓太らが行った研究がADVANCED SCIENCEに掲載されました。
5G通信やIoTの急速な普及、また情報処理機器の高機能化に伴い、通信回路や電子デバイスには、より小型で省エネルギーかつ高信頼な信号伝送技術が求められています。こうした背景のもと注目されているのが、量子現象が顕著に現れる先端材料「量子マテリアル」の概念を応用した「トポロジカル導波路」です。これは、低損失で一方向に波を伝える特性から、エネルギーや信号を“波”として伝送するシステムに活用が期待されています。しかし、トポロジカル導波路における波の一方向伝搬は、導波路の欠陥構造や外乱に対して頑強である一方で、その頑強性ゆえに出力比率などの伝播特性が構造により固定されてしまいます。これは、外部から制御しにくいことを意味し、集積化システムの最小単位である”回路素子”として、能動的制御が困難であるという課題がありました。
本研究では、制御可能な「トポロジカル回路素子」を目指し、構造のわずかな非対称性で波の進行方向を制御できる量子バレー・ホール効果に基づくトポロジカル導波路を2本組み合わせて、代表的な回路素子である”結合器”を作製しました。そして、本導波路では周波数に応じて導波路内の波の局在性が変化することを見出しました。この局在性の変化によって、結合器を構成する2本の導波路間を移動する波のエネルギー量が変化し、その結果、周波数によって伝送係数が可変となるトポロジカル結合器を実現しました。さらに、この性質を活かし、本結合器はさらにFSK通信の周波数信号を自動的に振り分け、信号の受信・復調機能を果たすことが実証されました。
本技術は、エネルギー・信号伝送回路の省エネルギー化と高機能化に貢献すると期待されます。
本研究のイラストが雑誌の表紙の一つに使われています。
https://advanced.onlinelibrary.wiley.com/toc/21983844/2025/12/35
タイトル: Quantum Valley Hall Effect-Based Coupler with Continuously Tunable Transmission for Topological Information Communication
著者: Funayama, K., Yatsugi, K., Tanaka, H., Iizuka, H.
掲載誌: ADVANCED SCIENCE
掲載日: 2025年6月29日
https://doi.org/10.1002/advs.202506732