私たちは、1999年に有機基を骨格内に導入したメソ多孔有機シリカ(Periodic Mesoporous Organosilica, PMO)の合成を世界で初めて報告しました(1)。PMOは、有機シラン原料((RO)3Si-X-Si(OR)3, X = 有機基, R = Me, Et, etc.)を界面活性剤の水溶液中で重縮合することにより合成されます(図1)。有機シラン原料中の有機基(X)の種類を変えることにより、多様な有機基をPMOの骨格内に導入できます。最初に合成したエタン基(X = -CH2CH2-)を導入したPMOは、エタン基が骨格中にランダムに分布したアモルファス状の細孔壁しか形成されませんでした。ところが、フェニル基(X = -C6H4-)を導入したところ、フェニル基が骨格中で規則配列して結晶状の細孔壁を形成しました(2)。細孔壁の中で、フェニル基とシリカが交互に積層した規則構造が観察されます(図2)。当時、シリカ、遷移金属酸化物、金属、カーボン等の多様な組成のメソ多孔物質の合成が報告されていましたが、そのほとんどの細孔壁はアモルファスでした。よって、フェニル基-PMOは、結晶状の細孔壁を有する初めてのメソ多孔物質として注目され、論文が自然科学系で最高ランクの雑誌ネイチャーに掲載されました(2)。フェニル基以外にも、ビフェニル基(3)、ナフチル基(4)、ジビニルピリジル基(5)、フェニルピリジル基(6)、ビピリジル基(7)でも結晶状のPMOが合成できることが分かっています。
光合成は、CO2を還元し炭化水素を合成する優れた光触媒機能を示します。光合成の鍵となる機能の一つに光捕集アンテナがあります。光捕集アンテナは、太陽光を効率的に吸収し、そのエネルギーを反応中心に送り込む重要な役割を果たします。私たちは、PMOが光合成に匹敵する優れた光捕集アンテナ機能を示すことを見つけました(8-10)。PMO骨格内の125個分のビフェニル基が吸収した光エネルギーが、細孔内の1個のクマリン分子に対し、100%の量子効率で集約されることを実験的に確認しました(8,11)。更に、PMOの細孔内に光触媒を固定することで、光捕集アンテナと連動したCO2還元(図3)(12,13)とO2生成(14)分子光触媒系を初めて構築することができました(15)。また、PMOの骨格有機基を電子ドナーとしたH2生成光触媒系も構築しました(16,17)。現在、PMOを利用して、酸化と還元触媒を連動させた犠牲剤フリーの分子光触媒系の構築を目指しています。
2014年に、金属配位子である2,2’-ビピリジン(BPy)基を骨格内に導入した新規PMO(BPy-PMO)の合成に成功しました(図4)(7)。BPy-PMOは、固体配位子として利用することができ、細孔表面に金属錯体を直接固定できます(図5)。これは、従来の分子リンカーを利用した金属錯体の固定化法と異なり、固体表面に分子レベルで制御された均一な触媒サイトの構築を可能としました。これまでに、Ru(18,19), Ir (20,21), Rh(22,23), Re(24), Mo(25), Cu(26), Pt(27), Zn(28)錯体のBPy-PMO上への固定化と優れた触媒特性を報告してきました(29)。例えば、BPy-PMOの細孔表面に直接固定したイリジウム触媒は、芳香族の直接C-Hホウ素化に対し優れた触媒特性を示し、均一系イリジウム触媒よりも高い触媒活性、耐久性、再利用性を示すことが確認されました(7)。また、BPy-PMOにモリブデン錯体を高密度に固定化した触媒は、オレフィンのエポキシ化反応に優れた触媒特性を示しました(25)。更に、BPy-PMOの細孔表面にルテニウム錯体(光増感剤)とレニウム(触媒)の両方を固定したところ、CO2からCOを生成する光触媒機能も確認することができました(24)。また、ビピリドン配位子を骨格に導入した新規PMOの合成にも成功し、イリジウム錯体を固定化した触媒をメタノールの水蒸気改質反応に応用したところ、100℃の低温で連続的に水素が生成することが確認されました(30)。今後、PMOの細孔空間のより緻密な設計により、酵素類似の特異な触媒機能の発現を狙います。