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PRESENTATION

生命の保有する金属イオン認識をヒントに、革新的なレアアース回収プロセスを実証

メタルペプチドプログラム

戦略研究部門 戦略先端研究領域
メタルペプチドプログラム
プログラムマネージャ
博士(農学)

石田 亘広

生命が選択的に金属イオンを認識して材料を創生する能力、これをバイオミネラリゼーションと呼びます。私たちは、本現象を分子レベルで追及し、金属イオンを自在に操る技術を目指した研究を進めています。

自然現象に目を向ける

アコヤガイが真珠を作る現象…すごく不思議な自然現象だと思いませんか?「なぜ無数の金属イオンからカルシウムだけが認識されるのか?」「なぜ常温常圧条件で鉱物が生じるのか?」「カルシウムイオン以外にも選択的に認識することはできるのか?」

生命にとって金属イオンは、太古よりなくてはならない存在でした。例えば、カルシウムイオンからの骨や歯の形成、鉄イオンを含んだ赤血球による呼吸活動、マグネシウムなどの金属イオンを配位した酵素による様々な生体反応の促進などです。生物は進化の過程で環境中の金属イオンを巧みに操り、その特性を生命活動に利用してきました。本現象はタンパク質やペプチドと呼ばれる生体有機分子が、特定のルールのもとに折りたたまれ、緻密に制御された空間構造を形成することに起因します。この構造は、常温常圧下でエネルギーをかけることなく特定の金属イオンのみを認識するため、生物は金属イオンを選択的に活用することができるのです(図1)。

私たちはこの現象を分子レベルで理解し、新たな可能性を目指した研究を進めています。「特定の金属イオンを標的にした空間構造をデザインし、選択的に回収できないだろうか?」「真珠のように緻密な鉱物化現象を模倣することで、常識を覆す新たな材料を創生できないだろうか?」その取り組みの一例として、レアアースイオンを選択的に認識して鉱物化する、今までにないペプチドについて紹介したいと思います。

図1.水溶液中における金属イオンと水酸化物の化学平衡をずらし、レアアースイオンのみを水酸化物化させて沈降させる。
図1. 水溶液中における金属イオンと水酸化物の化学平衡をずらし、レアアースイオンのみを水酸化物化させて沈降させる。

レアアース:先端材料に必須な金属元素

レアアースはHV自動車のモーター(永久磁石)や発光ダイオード(LED)、スマートフォンといった先端材料・機器に欠かせない重要な金属元素です。しかし輸入量の大半を中国に依存しており、過去に起きた価格高騰や今後の需要拡大を踏まえ、将来の安定供給に対するリスクが懸念されています。レアアースの採取は中国南部の大規模なイオン吸着型鉱床での硫酸アンモニウム添加法が主流ですが、環境への負荷が大きく、急速に森林が失われるなどの環境問題が起こっています。そのため、自然界や都市鉱山に含まれる希薄なレアアースを低エネルギーで効率よく回収・リサイクルする技術が求められています。

レアアースの主な分離技術として、金属イオンの静電結合性や金属錯体を原理とする抽出・吸着法が主流です。しかし、設備規模が大きく、酸・アルカリや有機溶媒を大量に必要とするため、エネルギーコストの大きい技術と言えます。また、レアアースは貴金属と比べると回収コストが見合わず、リサイクル技術が実用化されていないのが現状です。さらに、周期表においてランタノイドに属するレアアースは、無機化学的性質が似ているため、それらを分離することが非常に難しいという課題もあります。そこで、生命の持つ金属認識に着目しました。カルシウムや鉄、マグネシウムを自然環境下で選択的に認識できるのであれば、レアアースへの展開も可能なのではないかと考えたからです。

ペプチド集団をウイルス表面に合成し、その中から有用ペプチドを選抜する研究に取り組んでいます。得られた知見をもとに、今までにないアプリケーションの創出を目指します。

さまざまな配列からなるペプチド集団から、有用ペプチドを選抜

ペプチドとは、アミノ酸が複数個繋がった有機分子です。20種類のアミノ酸の組み合せによって、膨大な種類の配列設計が可能です。例えばアミノ酸がランダムに7つ連結した場合、約1億2千800万種類の多様性になります。その数は、アミノ酸の連結数が増加するにつれて上昇し、タンパク質レベルになると、理論的には数百億種類におよぶ組み合せが生まれます。分子レベルにおける膨大な数の組み合せ、これが生命の多様性の本質と言えます。

私たちは、バイオテクノロジーを利用し、およそ一億種類の多様なペプチド集団をウイルスの表面に合成する技術(ファージディスプレイ)、そしてこの集団から有用ペプチドを選抜する技術(バイオパンニング)を強みとしています。これらの技術を駆使して、レアアースを認識するペプチドの取得に成功しました。このペプチドは、混合イオンであってもレアアースイオンのみを選択的に認識し、一瞬にして粒子化(鉱物化:水酸化物化)する能力を持つことが分かりました。還元剤等の化学的な試薬を用いることなく、まるでアコヤガイから真珠ができるように、レアアースイオンのみをダイレクトに鉱物化できるペプチドは世界初で、レアアース認識・鉱物化ペプチドLamp(Lanthanideionmineralizationpeptide)と命名しました(図2)。

図2.およそ 1 億種類にも及ぶペプチド集団から、レアアースイオンのみを選択的に認識して粒子化(鉱物化)するペプチドを見出した。
図2. およそ1億種類にも及ぶペプチド集団から、レアアースイオンのみを選択的に認識して粒子化(鉱物化)するペプチドを見出した。

研究に対する価値観の多様性を大切にしています。メンバの専門も、化学・生物・物理・工学とバラバラですが、お互いの知識を融合させ、今までの常識を打ち破る新しい発想に挑戦しています。定期的に食事会を開いて、趣味や近況について気軽に会話をすることで、お互いの個性や年齢、専門の違いを越えた多様性という強みに繋がっていると思います。


主要論文・受賞

Hatanaka, T., Matsugami, A., Nonaka, T., Takagi, H., Hayashi, F., Tani, T. and Ishida, N., Nature Communications, Vol. 8 (2017), 15670.
Mori, T., Tsuboi, Y., Ishida, N., Nishikubo, N., Demura, T. and Kikuchi, J., Scientific Reports, Vol. 5 (2015), 11848.
Ishida, N., Excellent Paper Award from the Society for Biotechnology, Japan, (2007 and 2014).


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