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PRESENTATION

資源量豊富なケイ素と水と炭素でIoT社会を迎え撃つ

機能性Si低次元材料プログラム

戦略研究部門 戦略先端研究領域
機能性Si低次元材料プログラム
プログラムマネージャ
博士(工学)

中野 秀之

シリコンを原子層まで薄くしたシリセンでは、電子が高速で移動可能となりますが、大気中で容易に酸化分解します。それを解決するために、有機基での保護や新規構造を提案し、省エネルギーで高速なデバイスを目指します。

シリセンの歴史

IoT 社会や現実味を帯びてきた自動運転に対し、シリコン半導体技術はムーアの法則に沿った微細化や集積化により、高性能化、低消費電力化、低コスト化が進められてきましたが、その限界に到達しつつあります。私たちのグループでは、シリセンを基軸とした More than Moore となり得るシリセンの電界効果トランジスタ(FET) の実証に挑戦しています。

シリセンの研究の歴史は浅く、1994年にシリコンの二次元結晶として理論予想された事から始まり、2007年にシリコンの二次元シートが「シリセン」と定義付けされ、2009 年にリボン状のシリセンが実験的に初めて合成されました。2015 年にはシリセンを用いたトランジスタが試作され、 Nature誌に“Silicene makes its transistor debut”という記事が掲載されました。この記事の中で「こんなに早くトランジスタが実現するとは誰も予想しなかった」と書かれるほど、ものすごいスピードでシリセンの研究は進んでいます。その理由の一つとして、2010年にノーベル物理学賞の対象となった「グラフェン」は、バンドギャップが空いていないためリーク電流が多く、そのまま半導体材料には応用できませんが、シリセンはシートのバックリングによってギャップを制御できることが挙げられます。つまり、シリセンはグラフェンの欠点を克服した新たな機能材料として、超高速電子デバイスへの応用が期待されています(図1)。

私たちは、様々な層状シリコン化合物を単層剥離してシリセンの創製を行うとともに、それらの構造や性質の解明を進めています。2006年には世界で初めて水が付加したシリセンの合成に成功しており、さらにこれを機能性有機基で安定化して、超高速電子デバイスの開発を目指しています。

図1. シリコンとカルシウムの化合物(CaSi2)を塩酸水溶液に浸けると、シリコンのグラファイト版である層状ポリシラン(Si6Hi6)が形成する。さらに、これを化学剥離することによりシリコン一原子層のシリセンとなる。

出口を志向して報告例のない結晶構造を創る。まさに材料科学の醍醐味!多層シリセンを端に半導体分野に革命をもたらす研究を推進しています。

多層シリセンの発見!

単層のシリセンだけでなく二層シリセンの合成にも世界で初めて成功しています。この研究は、CaSi2を構成しているカルシウム層を安定な化合物に変換できれば、不安定になったシリセン層は再構成するだろう、との仮説のもと進めました。都合の良い事にカルシウムのフッ化物(CaF2)は、シリセンと同じ格子サイズを持つので、CaSi2フッ素化を試みました。その結果、CaF2にサンドイッチされて二層シリセンが成長している事を確認しました。

二層シリセンの正確な構造は、100枚以上の透過型電子顕微鏡写真の解析と理論計算から導きました(図2)。その途中には、結晶モデルキットを利用して手作業で試行錯誤を繰り返しながら近似構造を組み上げていきました。最終的に決定した構造は、従来にない四、五、および六員環のシリコンから形成された特異な新規構造であり、ダングリングボンドはシリコン原子全体の、1/4しかありません。
単層シリセンは全てのシリコン原子上にダングリングボンドが存在するため、大気中では容易に酸化分解するなどの課題がありましたが、二層シリセンはこの欠点を克服した新物質として注目され始めています。また、光吸収測定データと電子状態密度計算をもとに、エネルギーバンドギャップが1.08eVに開いた間接遷移型であることも明らかにしています。

新しい化合物の発見には運もあります。二層シリセンの研究を始めた当初は、全くフッ素化反応が進んでいないと考えていましたが、たまたま電子顕微鏡で観察した際に、この構造を偶然見つけました。尻尾を一旦掴んだら最後まで離さない、執念も必要です。

図2. 二層シリセンの透過型電子顕微鏡写真と計算により導かれた結晶構造。

半導体の革命児を目指して!

シリセンの電子移動度は、理論的にはグラフェンに対して二桁低いと見積もられていますが、現状のシリコンと比較すると二桁以上高い電子移動度が期待されています。そのため、シリセンFETが実証できれば、グラフェンで苦戦している高速性を特徴とするスイッチング素子の領域に踏み込むことが可能となり、IT機器の設計自由度が大幅に向上することになります。また、リーク電力の低減に伴い大幅な低消費電力化も期待され、省エネに対して大きな効果をもたらすことが期待されます。その先には自動運転車に搭載され、モバイルコミュニケーションとクラウドシステムが構成するIoT社会実現に大きく寄与する事でしょう。

縮小投影露光装置やSEMなどのプロセス装置、評価装置が立ち並ぶクリーンルームは、熟練の技師たちによって維持、管理がなされ、最先端の研究をサポートされています。拍車のかかる自動車のインテリジェント化に応えるべく、半導体技術の限界を打破する新材料や新原理に基づく機能素子を、ここから発信しています。

主要論文・受賞

Nakano, H. and Ikuno, T., Applied Physics Reviews, Vol. 3 (2016), 040803.
Yaokawa, R., Ohsuna, T., Morishita, T., Hayasaka, Y., Spencer, M. J. S. and Nakano, H., Nature Communications, Vol. 7 (2016), 10657.
Nakano, H., CerSJ Awards for Academic Achievements in Ceramic Science and Technology (2014).


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