PRESENTATION

つながる機器と情報に知能を与え大規模なシステム群を制御する

自律分散協調制御

戦略研究部門 データアナリティクス研究領域
知能システム制御プログラム
プログラムマネージャ
博士(工学)

神保 智彦

インフラ、モビリティ、ロボット、センサがネットワークでつながるスマート社会において、これらの機器が知的に連携するための分散制御理論およびその技術について研究しています。

情報空間と物理空間のインターフェースとなる制御理論

モノのインターネット化、いわゆるIoT (Internet of Things)の技術により、将来、インフラやあらゆるモビリティ、ロボットなどがネットワークでつながるスマート社会が訪れようとしています。そこでは、インフラや各端末にセンサが搭載され、様々な空間的スケールの情報を得られるようになります。都市全体の需給情報、交通情報、歩行者情報などの膨大なデータから知見を獲得し、需要を予測したり、データから有用な情報を獲得したりすることができます。ユーザはそれらのデータを、様々なアプリを通して活用しますが、提供されるデータが膨大なため、必要な情報を取捨選択して、行動に結び付けなくてはなりません。

そこで大きな役割を担うのが「制御」です。センシング情報に基づき、目的のタスクに応じて自動で判断し、適切な行動・操作を実現する。こうした技術が進化すれば、データのさらなる有効活用や、新しい社会的価値の創出につながります。

自然界と分散制御

自然界には、鳥や魚、蟻など、集団で群れて行動する生物がいます。これらの生物は、各個体(エージェント)が簡単な個別のルールに基づいて行動しながら、群れとしても最適な振る舞いを実現することにより、集団生活を成立させています(図1-左)。マルチエージェントシステムにおいても、集中的に最適制御を行うのではなく、生物の群れと同じように、各エージェントが個別に判断し、最適に行動する“分散制御”が望ましいと考えています(図1-右)。

分散制御では、全体としての最適な振舞いを保つため、どのように個別最適化すればよいか、どのような情報を交換して擦り合わせればよいかを研究しています。

図1. (左)生物の群れによる協調行動の例。(右)複数のドローンが協調してモニタリングしている例。 各ドローンは分散制御という、個別のルールに基づいて移動し、全体をモニタリングする。

センシングカバー率の全体最適、観測対象の自動探索の両立を特徴とする、群制御メカニズムを考案しています。

配置問題と分散センシング

現在、私たちは、ドローンを用いて、提案する分散制御アルゴリズムの検証を行っています。

複数台のエージェントで、ある領域に存在する複数個のターゲット(観測対象)をカメラでセンシングする場合、n台のエージェントをn個のターゲットに配置する組み合わせは、n!(nの階乗)通りになります。例えば、9台のエージェントで9個のターゲットをカバーするだけでも36万通り余りの組み合わせがあり、集中的な計算によって最適値を求めるのは非常に困難です。そこで、各エージェントがその初期配置からどのように移動すればよいかを、エージェントが個別に考えて移動する、分散センシングを採用します。

全体最適を実現する分散制御

エージェントは個別に考えて移動しますが、複数台が同じ場所をセンシングしたり、ターゲットが無い場所に居続けたりしては、全体としては最適な配置と言えません(=局所最適な配置)。従来の分散制御を適用し、隣りの位置情報(局所情報)を共有して各エージェントを配置すると、局所最適な配置となってしまいます(図2-a) 。

そこで私たちは、通信レンジ以内のエージェント同士で、互いのカバー率情報(準局所情報)も共有することにより、全体最適を実現しました(図2-b)。実際には、初期値をどの位置に設定した場合でも全体最適を実現するよう、理論的に保証した上でドローンに実装し、検証を行っています。

図2. (a)従来のように位置情報のみを通信する制御では,ボロノイ分割※を利用しても全体としてうまく配置ができない。(b)提案手法では近傍ドローンの軌跡と観測した場の重要度を使い,個々のシンプルな制御則により全体最適な配置を実現する。(c)さらに,ターゲットの位置があらかじめわかっていない場合でも,各ドローンが近傍との通信によって構築する重要度マップを用いて,ターゲットを探しながら早期に最適配置を実現する 。
※ボロノイ分割: 隣り合う母点(ドローン)間を結ぶ直線に垂直二等分線を引くことにより、全体領域を各母点の 最近隣領域に分割する手法。

分散制御だけで役に立つ?

私たちは、現在の研究を実践的なフィールドで役に立つものにし、新産業を創出することを目指しています。そのためには、マルチエージェントを知的に協調させる分散制御理論だけでなく、様々な分野の技術との融合が必要不可欠です。エージェントは、自分がどこにいるかを知らなくてはいけませんし、センシングした画像などから問題のある箇所を見つけなくてはいけません。また、センサはカメラのみとは限りません。音をセンシングするためには、音源分離などの信号処理技術も必要です。

実現したいことや、そのために必要な協調作業の数だけ、融合すべき技術があり、研究課題があります。私たちは、自分たちの固有技術をしっかりと構築し、それを磨きながら、異分野と連携し、そこから得られた新しい発見を次の固有技術へと繋ぐことによって、技術開発のスパイラルを構築していきたいと考えています。


メンバーのベクトルをしっかりと合わせた上で、個人がやりたいことベースで研究計画しています。やりたいことであれば自然とモチベーションが上がり、質の良い成果が期待できます。


主要論文・特許

Miyano, T. et al., "Multi-role Coverage Control for Multi-color Mass Games: A Voronoi-based Cut-in Approach", IFAC 2017 World Congress (2017).
宮野竜也 他, 「視覚センサネットワークによる駐車場の死角被覆制御」, 計測自動制御学会論文集 特集号, 54, 2, 182-193 (2018).
柴田一騎 他, 「高応答な死角捕捉を実現する被覆制御の開発と実機検証」, 計測自動制御学会論文集 特集号, 54, 2, 201-208 (2018).
特願2017-135071 カバレッジ装置、移動体、制御装置、移動体の分散制御プログラム.


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