PRESENTATION

新しい物理現象を導入して驚きのデバイス・システムを提案する

ナノスケール・センシングシステム

戦略研究部門 戦略先端研究領域
ナノセンシングプログラム
プログラムマネージャ
博士(工学)

田所 幸浩

ナノサイズのデバイスで通信を行えば、システムの大きさを二桁以上小さくできます。機械学習を活用して微弱な信号でもSN 比をかせぎ、ユビキタスで膨大なセンサからの情報を読み取ります。

「見えないセンサ」でIoT 新時代の実現へ

IoT 時代が到来すると、様々な「モノ」が直接インターネットに繋がります。これにより、これまで収集できなかった多種多様なデータを獲得でき、それを活用する新しいサービスの登場が期待されます。当然、人々の生活も豊かになるでしょう。私たちはこの流れを加速させたいと思います。

では、現在の技術でこのような社会が実現できるでしょうか?「情報の取得( センシング)」と「情報のやりとり」が鍵となりますが、これらを担うセンサ技術と通信技術にはまだ改善の余地があると考えています。もちろん、既にある端末、例えばスマートフォンや各種ウェアラブルデバイスなどにより様々なデータは取得でき、サーバへのアップロードも可能です。その意味で、既存の技術により一定の部分はできていると思います。

しかし、これまで以上に多くの情報を取得するには、様々なセンサをユビキタスに置かなければなりません。身の回りが大きなセンサだらけでは邪魔でしょうがない。そこで「目に見えないセンサ」ならば、存在を気にせずに情報を得ることができます。つまり、目視できないほど小さなセンサ端末が、IoT 社会の実現を加速するのではないでしょうか。

私たちはこのようなセンサを「ナノセンサ」と呼び、センシング機能や通信機能の二桁以上の小型化を狙って研究開発を行っています。キーワードは「機能を持ったナノ構造× 機械学習」です。センシングと通信、2つの機能のうち、センシング機能に関してはかなり技術が進んでいます。例えばNEMS(Nano Electro Mechanical Systems)と呼ばれる技術を使うと、数百ナノメートルのサイズの圧力センサを作ることができます。しかも従来品よりも感度が非常に高く、次世代のセンシング技術として関心を集めています。

通信機能に関しては、一番大きな場所を占めるのは、アンテナなどのいわゆるRF(Radio Frequency)フロントエンドの部分です。従来のアンテナ技術だと、金属棒体上に励起する電流により電波の送受信を行います。この励振のためにはアンテナの大きさを、使用する電波の波長程度(数cm)に設定しなければならない、という電磁気学的な制約があります。これではナノセンサの実現には至りません。

カーボンナノチューブ1本をアンテナに

私たちはこの電磁気学の限界を超えるために、新たにフィジックスの理論を取り入れたナノスケール・アンテナの可能性を検討しています。NEMS 技術を発展させ、機械的な振動により電波の送受信を行うというものです。電荷が集中した場所に電界が到来すると、そこにクーロン力という力が発生します(クーロンの法則)。この力は非常に弱いのですが、カーボンナノチューブのようなナノスケールの材料にとっては十分な力になります。所望の電波が到来すると、それがカーボンナノチューブの振動に変換される。つまり振幅や位相などの電波の情報がカーボンナノチューブの振動に置き換えられます。そして、これらを量子効果で発生する電流 (fi eld emission current)により読み取ります。カーボンナノチューブの大きさは約1 マイクロメートルサイズであるため、従来よりも非常に小さなアンテナが実現できます。

マイクロメートルサイズのアンテナは放射面積が非常に小さいため、感度は充分ではありません。私たちは感度を上げるための様々な試みをしています。その一つにアンテナの指向性を制御することが挙げられます。構造力学と電磁気学を合わせた理論解析手法を用いてアンテナの指向性を解析し、感度が最も高くなる電波の到来方向を導出します。そして感度の高い方向から常に電波が到来するように、カーボンナノチューブの振動方向を制御する電極を設置します。また、アンテナの感度が悪いと所望の信号を充分に得られず、雑音の影響を大きく受けます。そこで、アンテナによる信号受信の次におこなう信号処理において、雑音の影響を和らげるようなしくみを取り入れることで、低いアンテナ感度の補償を試みています。

ナノセンサと機械学習によって真のIoT 時代を実現し、驚きのデバイスで新しい時代の到来を加速させます。

もっと驚きのデバイスを電波だけでなく、光や熱も制御する

私たちのチームでは、ナノセンサ以外にも様々な取り組みを行っています。例えば、物体透明化技術、熱制御デバイス技術、光学フィルタ技術などが挙げられます。これらに共通していることは、「新しい物理現象( フィジックス) を巧みに操り、これまでにない驚きのデバイスを生み出す」ということです。

例えば、光学フィルタ技術ではメタマテリアルという、材料に現れる面白い物理現象を活用した角度フィルタを提案しています。一定の角度範囲で任意偏光の光を透過させ、それ以外の角度の光を全て反射させる角度フィルタで、ディスプレイや光センサなどの分野で広く望まれているデバイスです。従来の材料では、一般的に屈折率が1より大きいため、空気から光を入射した場合、臨界角は現れずこのようなデバイスを構築することは不可能です。メタマテリアルとは、材料の屈折率を極めて小さくした(ニアゼロ)もので、小さな入射角でも、臨界角による全反射が現れます。屈折率ニアゼロのメタマテリアルを多層膜で構成したところ、±25 度の角度範囲内で単色光(635nm、任意偏光)がほとんど減衰せず透過する特性が得られています(図1)。

このように、新しいフィジックスや機械学習技術を応用した「驚きのデバイス」の提案を通して、新しい価値の創出に貢献したいと考えています。

図1. 光屈折を自在に制御できる光角度フィルタを考案した。メタマテリアルとして2 種類の材料を積層させ、その厚みを工夫することで、屈折率ニアゼロを実現する光角度フィルタを設計した。試作実験の結果、±25 度の角度範囲内で単色光がほとんど減衰せずに透過することを確認している。

平均年齢33 歳、年齢も近いため遠慮のない活発な議論ができています。「驚きのデバイス」には良い議論と斬新なアイデアが重要なので、その源は確保できていると信じています。理論解析や計算機シミュレーション、実験などに励み、時には国内外のトップ研究者と議論しながら、一人前の研究者になるべく日々修行しています。


主要論文

Tanaka, H., Ohno, Y. and Tadokoro, Y., IEEE Transactions on Molecular, Biological and Multi-Scale Communications, 3 ( 2017 ), pp.24 – 32.
Iizuka, H., Engheta, N. and Sugiura, S., Optics Letters,. 41 ( 2016 ), pp. 3829 - 3832.


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