PRESENTATION

新しい概念の結晶成長法で、超低損失な電動自動車を実現する

次世代半導体

シニアフェロー

中村 大輔

パワーデバイスをSiC やGaN といった化合物半導体で作れば、抵抗とスイッチング損失を小さくできます。しかしその実現には、安くて高品質な結晶が無ければ始まりません。

シリコンから化合物半導体へ

「結晶」というと何を想像されるでしょうか?雪?ダイヤモンド?私たちの身の回りには結晶からできているものがたくさんありますが、中でもスマートフォンやLED 照明、そして自動車といった電子機器に必ず使われている半導体も結晶から作られています。

これらの半導体の中で電力制御に用いられるもの、すなわちパワー半導体に焦点を絞ると、シリコンが最も幅広く利用され、すでにシリコンの物性限界に迫るところまで改良されてきました。言い換えれば、製品のさらなる省電力化や小型化を実現するには、シリコンよりも高い材料特性を有する半導体、すなわち次世代半導体(SiC、GaN)の開発が欠かせません。

融液からの引き上げ法によって成長するシリコンに対し、SiC やGaN といった化合物は常温常圧では一致融液が存在しません。したがって、気体の状態で原料を供給して結晶化させる必要があります。シリコンよりも高温(2000℃超)、かつ高腐食性(アンモニアガスなど) 環境を必要とする場合が多いため、技術的な課題も山積しています。

図1. 2000℃以上の高温で作られたSiC 単結晶の顕微鏡像。中心にらせん転位が存在する。このらせん転位から渦巻き状に広がる各ステップの幅はおよそ5 μmで、らせん状に単結晶成長が進行する。

新しい概念のGaN バルク結晶成長法を提案

最近ではGaN 単結晶の高品質化、そして大型化を低価格で実現するために、新規成長法の提案と実証を進めています。特にコストダウンの鍵となるのが、成長速度と、長時間成長による長尺化、そしてGa 原料の高収率化です。現在主流である成長法、例えばハイドライド気相成長(HVPE) 法では、原理的に長時間成長による長尺化ができません。それはGa の原料供給に使用するHClとN 源となるアンモニアの反応により生じる固体の副生成物が、成長装置の配管を閉塞させてしまうためです。

そこで私たちは、原料供給にHCl を用いないハロゲンフリー気相成長(HF-VPE) 法を提案しました。成長装置の模式図( 図2)に示すように、Ga を蒸発させ、GaN 種結晶上に供給し、アンモニアと反応させるため副生成物がなく、長時間成長が可能な手法となっています。これまで、500 μm /h を超える高速成長や、従来法に比べて高いGa原料収率を実証しています。この収率の差は、シリコンに比べ原料が高額なGa にとって、非常に大きなコスト削減に繋がります。全く新しい概念の成長法であるため、結晶品質などに課題もありますが、高速・長時間成長が可能で生産性のあるバルク成長法となり得るポテンシャルを有しています。

図2. ハロゲンフリー気相成長法GaN 成長装置の模式図。Ga 原料を蒸発させ、Ga 蒸気とアンモニアと反応させることで種結晶上にGaN を成長させる。

新規GaN 成長法の提案と、究極の耐久性部材の開発で高品質・低コスト化を追求。

成長と挑戦

結晶の見た目の美しさと異なり、研究は、地道な失敗の積み重ねから解決の糸口を見つけ突破口となることがあります。私たちも、新しい成長法の提案や使用部材の見直しなど、一見すると遠回りなところから抜本的に検討することにより、結晶成長を進化させてきました。

直面する問題に対して、結晶成長論だけでなく、材料、熱力学、流体力学などの多岐にわたる知識を求め、最新の論文情報だけでなく、教科書に立ち返って原理原則から考えることが大切であり、また半導体プロセス技術や、X 線回折などの分析技術も必要となるため、他の部署の専門家にも協力を仰ぐことも欠かせません。そして、成長実験で得られた結晶を注意深く分析することで、成長炉の構造や、成長条件にフィードバックをかけ、日々改良しています。まだ道半ばですが、シリコンの次の半導体の実現に挑戦します。


少人数の比較的若いチームなので、それぞれの研究バックグラウンドを活かして活発に議論しています。活発な議論は研究の加速や軌道修正だけでなく、各人の成長を促す触媒でもあります。一方で趣味や家族の話題で、肩の力を抜いたコミュニケーションも重要な潤滑剤です。



PAGE TOP