PRESENTATION

人工光合成実用サイズ化を実現させた異分野融合

人工光合成実用化チーム

太陽光エネルギーを使ってCO2を資源に変える人工光合成。
工場のCO2削減をはじめとする幅広い分野での実装を目指して、
実用サイズでの太陽光変換効率の向上に取り組んでいます。

当社は、世界で初めて実用サイズ(36センチメートル角)の人工光合成セルで、太陽光変換効率7.2%を達成しました。その成功には当社ならではの研究分野の幅広さとチーム力がありました。

求められた膨大な研究課題とスピード

開発チームには2つの達成しなければならない目標がありました。ひとつは従来サイズ(1センチメートル角セル)と同等、またはそれ以上の性能を実現しながら大きくすること。そして熾烈な開発競争の中でいち早く実現すること。大きなプレッシャーを抱えて開発が始まりました。

人工光合成セルの実用サイズ化には、数えきれないほどの構成部材とそれを作製する数々のプロセスが求められ、どれか一つでも欠けては最後まで辿り着くことができません。その達成には 、機械設計や電気回路設計、流体解析、物理的・化学的解析、材料合成、デバイス作製など多くの要素技術を組み合わせる必要があります。限られた時間の中でそれらの要素技術を深化させることは、これまでにないほどチャレンジングで、それと同時に強くやりがいを感じるものでした。

従来サイズセルと比べて、実用サイズセルの作製には時間がかかり難易度も上がります。例えば、セルのアノード電極に用いる触媒材料の合成では、従来サイズの場合には小さな反応容器1回の合成でセル数個分の電極を作製し、性能評価を実施することができました。一方、実用サイズセルでは大量の触媒材料が必要なため、反応容器を大きくすることが求められます。しかしながら、単に反応容器を大きくするだけでは同じ 特性の触媒材料を合成することはできません。分析部のメンバと連携しながら、原料の添加方法や温度制御、反応時間を検証し、大量合成につなげました。「限られた時間の中で、作製 プロセスを創造、構築していくことは大変でした。」と、担当した塩澤さんは苦労をにじませました。
また、セル設計に関しても同様で、従来サイズセルの構造をそのまま大きくすると性能が低下してしまいます。アイデアを出し合い新しいセルの構造を提案しましたが、検証する時間は限られていました。そこで、実用サイズセルと同じサイズの検証用セルを 作製しました。これにより、電解液の流れや電極間の距離を簡便に変更し、且つセル内の温度やCO2濃度などの状態を計測することができるようになりました。
また、実験 と併せて流体解析、CO2濃度分布解析、電磁界解析等のシミュレーションも 活用しました。中でも、流体解析を実施することで実用サイズセル内部の電解液の流れを均一に制御し、セル内部で反応の偏りをなくすことができました。このように、実験結果とシミュレーションの知見を反映し、実用サイズセルの設計を行いました。

【左から】塩澤真人、水野真太郎

アジャイル型の研究を成功させた信頼関係

性能を実現するための膨大な課題と限られた時間。成功のカギはメンバの信頼関係でした。プロジェクトには、機械、電気、材料などの異なる部署からメンバが集まりました。いろいろな分野の人がすぐに集まれるのが当社の強みですが、それぞれの専門分野が違う ため、当初は議論がかみ合わないこともありました。そこで、根気強く他者の意見に耳を傾け、日ごろから積極的にコミュニケーションをとることで、自由闊達な意見交換ができるようになりました。

スケジュール管理と設計を担っていた水野さんは「納期までに達成するには仕様の決定と設計を同時に行わなければならない。」と感じました。材料研究者が創出した 成果をフルに発揮する新しいセル構造を、設計担当の水野さんや野尻さんが形にする。そこから問題を見つけ、さらに直すというアジャイル型の改良ステップを踏みました。アジャイル型の研究が成功した要因は 迅速な意思決定とフラットな情報共有 であり、その根底にあったのはリーダである加藤さんの意思決定を信じて行動できる信頼関係でした。

2015年の人工光合成セル(1センチ角)
【左から】野尻菜摘、竹田康彦

さらに、予期せぬトラブルが起きたときにはチーム外からも駆け付け、アドバイスをくれる研究者がいました。ベテランの竹田さんは、「いろいろな分野の人がそばにいるのが強み。個人では解決できないことも、人をつなぐことで解決できる。これはベテランの役割。」と話してくれました。チームにかかわらず相手のために行動できる人間関係を築いていました。

2015年の人工光合成セル(1センチ角)
加藤直彦

人工光合成セルの実用サイズ化の成功は、異分野融合とそれを支えるメンバ間の信頼関係があればこそでした。人工光合成が実社会に普及するには、まだまだ多くの課題があります。これまで以上に広い世界とつながり、真摯に取り組むことで実現に近づいていけると信じています。


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