カーボンニュートラル社会の実現に向けて、
当社は、工場の省エネルギー化・CO2削減と、再生可能エネルギーの普及に
必要となる研究に取り組んでいます。
今世紀に入ってから、世界各地で豪雨、熱波・寒波といった大規模な気象災害が多く発生し、私たちの日常生活に大きな影響を及ぼしています。その原因として、人の活動によるCO2などの温室効果化ガスの排出量が増加・蓄積していることにより、地球温暖化などの気候変動を引き起こしている、と考えられています。
このような状況に対して、国際的に、2050年に実質的なCO2排出量をゼロにする、カーボンニュートラルの実現が必要とされています。これは持続可能な社会を実現するための世界レベルでの課題であり、国の制度、産業技術、人々の行動変容まで、さまざまな取り組みが必要とされている状況です。これに対し産業界は、社会的責任としてだけでなく企業経営の観点からも、気候変動に対し取り組むことが重要になっています。
当社はトヨタグループの中央研究所として、カーボンニュートラルの達成に向けた研究開発を2016年頃から強化して進めています。カーボンニュートラルには消費するエネルギーを大幅に減らす「省エネルギー」と、「再生可能エネルギー(再エネ)を効率よく使う」ことが必要であり、この二つを中心とした研究に取り組んでいます。
工場から捨てられるエネルギーの多くが熱として排出されており、この排熱を有効利用することは、工場の省エネルギー化に重要です。当社では、排熱を利用した吸着式ヒートポンプによる「排熱エアコン」や、排熱を蓄熱材に一時的に貯めて再利用する「熱バッテリー」(図1)などの、熱マネジメント技術について実証レベルで取り組んでいます。またIoTを利用して工程内の消費エネルギーを可視化・最適制御すること、さらには、AIを用いてエネルギーロスを最小にする設備レイアウト設計や生産計画を立てる研究も行っています。
現在、送電線から家庭などに届けられている電気は交流(AC)ですが、スマートフォンやパソコンなど、直流(DC)に変換して使用する機器も多くあります。再エネの代表である太陽光発電で作られる電気はDCであり、今後の再エネの普及により、ACとDCの両方を使いこなすための技術が重要になると考えています。当社では、「スマートパワーハブ」と呼ぶ小型かつ高効率なAC/DC変換や、劣化状態が異なる中古電池を束ねて電気を使い切る「スイープ電源システム」(図2)など、ACとDCの両方を効率よく利用するための技術開発を進めています。また、DCをそのまま電気自動車の充電に用いるなど、より再エネを活用できるようにするDCマイクログリッドの研究にも取り組んでいます。
太陽光や風力などの再エネは天候や時間などにより大きく変化するため、有効に使うには蓄電が必要とされています。しかし、長期間・大規模な蓄電は高コストであり、安定かつ安価に貯蔵できるエネルギーキャリア技術が求められています。
水素は代表的なエネルギーキャリアであり、当社では、電力から水素へ変換する「水電解」技術に取り組んでいます。また、水素をさらにメタンへ変換することで既存の都市ガス設備を使用することが可能となり、再エネ由来のエネルギーを使いやすくなります。この考えに基づいた「CO2メタン化循環システム」(図3)は、工場施設からCO2を排出しないシステムとして、実証レベルで研究開発を進めています。その他にも、人工光合成などを中心としたCO2ネガティブ化技術についても取り組んでいます。
ある工場を再エネで稼働させようとする場合、エネルギーの需要と再エネの供給が釣り合うように設計することが必要です。当社では、これまでに紹介した省エネ技術、再エネ電力グリッド、エネルギーキャリアなどを組み合わせた最適なシステムを、数理的に設計するための「エネルギーシステムデザイン」技術の研究を進めています。この技術により、さまざまな組み合わせの中からコストミニマムな設備構成を設計することが可能となります。また、設計したシステムを最適に制御するための「エネルギーマネジメント」(図4)技術の研究にも取り組んでいます。ここでは、デジタルツインの考えを用いて工場の実環境を仮想環境に再現するという研究の進め方で、システム構築を目指しています。